『タワーリング・インフェルノ』から『白夜行』
2006年 06月 19日
ワールドカップのブラジル×オーストラリア戦を横目に観ながら、そして日本の絶望的試合を確認したあと、短評をいくつか。
▼映画『タワーリング・インフェルノ』
ポール・ニューマン、スティーヴ・マックィーンらが出演するなかなかいい映画だった。高さを競ってビルを建て続けるだけで、安全性を蔑ろにしている社会を小馬鹿にした映画。現在とは大分時代背景が異なるが、いつでも、今でも、何かを犠牲にしつつ社会が前進しているのは変わらぬ事実。それを糾弾することを正義となすことも、また変わりばえしない人間の自己満足。
▼原武史・保阪正康『対論・昭和天皇』(文春新書)
非常に面白い内容。国民の命より「三種の神器」に拘り続けた(それが本当かどうかは疑問)昭和天皇の苦衷は、わからぬものでもない。まだまだ不明な部分が多い皇室の実態、世情の変化に翻弄される歴代天皇の立場の微妙なブレがまた、興味深いのである。
▼東野圭吾『白夜行』(集英社文庫)
大傑作。遠くない最近にテレビドラマ化されてこの本の存在を知ったという東野圭吾知らずの私だが、ドラマ化が本を読む契機となることはまずありえないとして、読もうと思ったのは福田和也のこんな言葉。東野氏が『容疑者Xの献身』で今年上半期の直木賞を受賞したとき、福田氏は『白夜行』のほうがずっといい、と云っていた。ならば、と思い、その言葉を目にしてから数日とおかずこの本を買った。
なぜ東野圭吾の本を読もうと思ったのか。それまで関心のもたなかった著者なのに、とすれば、やはりドラマ化の影響は拭えないかもしれない。直木賞受賞は最大の理由とはならないし(当然)、福田和也の言葉も同じく決定的ではない(福田氏が薦める本の数は膨大)。なんて考えれば、ドラマ化という話題性(さらに云えば、ちらっと観たドラマで武田鉄矢が風変わりな役を演じていたことが印象に残っていた)が大きいのだろうなぁ。
でも。これぞまさにミステリーなのだろうという本だった。睡眠時間を惜しんで毎夜読み続けた本というのは久しぶりである。正直、誉れ高き宮部みゆきの本よりもずっと面白かった。ミステリー素人だからだろうけど、20年という時間軸をかけた話の仕掛けには唸らせられたし、過剰でもなく不足でもない挿話の使い方は巧みで、よくありがちな著者の言葉の酔いが全く見られなかった(それはそれで淡白に映るかもしれないが)のもよかった。小林信彦が云う優れた小説の条件、「ノリのある小説」とはまさに、この小説のことを云うのだろう。800ページを抱えつつ最初から最後まで緊張感を持続させながら読ませてくれる小説は、なかなか少ないものだ。そして、テレビドラマのほうも観たくなってしまうのである。
それにしても。オーストラリアはブラジル相手になかなかいいサッカーを見せている。日本は、あまりに弱かった。
▼映画『タワーリング・インフェルノ』
ポール・ニューマン、スティーヴ・マックィーンらが出演するなかなかいい映画だった。高さを競ってビルを建て続けるだけで、安全性を蔑ろにしている社会を小馬鹿にした映画。現在とは大分時代背景が異なるが、いつでも、今でも、何かを犠牲にしつつ社会が前進しているのは変わらぬ事実。それを糾弾することを正義となすことも、また変わりばえしない人間の自己満足。
▼原武史・保阪正康『対論・昭和天皇』(文春新書)
非常に面白い内容。国民の命より「三種の神器」に拘り続けた(それが本当かどうかは疑問)昭和天皇の苦衷は、わからぬものでもない。まだまだ不明な部分が多い皇室の実態、世情の変化に翻弄される歴代天皇の立場の微妙なブレがまた、興味深いのである。
▼東野圭吾『白夜行』(集英社文庫)
大傑作。遠くない最近にテレビドラマ化されてこの本の存在を知ったという東野圭吾知らずの私だが、ドラマ化が本を読む契機となることはまずありえないとして、読もうと思ったのは福田和也のこんな言葉。東野氏が『容疑者Xの献身』で今年上半期の直木賞を受賞したとき、福田氏は『白夜行』のほうがずっといい、と云っていた。ならば、と思い、その言葉を目にしてから数日とおかずこの本を買った。
なぜ東野圭吾の本を読もうと思ったのか。それまで関心のもたなかった著者なのに、とすれば、やはりドラマ化の影響は拭えないかもしれない。直木賞受賞は最大の理由とはならないし(当然)、福田和也の言葉も同じく決定的ではない(福田氏が薦める本の数は膨大)。なんて考えれば、ドラマ化という話題性(さらに云えば、ちらっと観たドラマで武田鉄矢が風変わりな役を演じていたことが印象に残っていた)が大きいのだろうなぁ。
でも。これぞまさにミステリーなのだろうという本だった。睡眠時間を惜しんで毎夜読み続けた本というのは久しぶりである。正直、誉れ高き宮部みゆきの本よりもずっと面白かった。ミステリー素人だからだろうけど、20年という時間軸をかけた話の仕掛けには唸らせられたし、過剰でもなく不足でもない挿話の使い方は巧みで、よくありがちな著者の言葉の酔いが全く見られなかった(それはそれで淡白に映るかもしれないが)のもよかった。小林信彦が云う優れた小説の条件、「ノリのある小説」とはまさに、この小説のことを云うのだろう。800ページを抱えつつ最初から最後まで緊張感を持続させながら読ませてくれる小説は、なかなか少ないものだ。そして、テレビドラマのほうも観たくなってしまうのである。
それにしても。オーストラリアはブラジル相手になかなかいいサッカーを見せている。日本は、あまりに弱かった。
by le-moraliste
| 2006-06-19 02:58
| 本