人気ブログランキング | 話題のタグを見る

本・雑誌・ニュース・頭の中のメモ・メモ・ひたすらメモ


by le-moraliste
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

『億万長者夫人』から『自壊する帝国』

北原白秋「邪宗門秘曲」、何度も読み返して気に入ってしまったのでそれが収録されている文庫本を探し見つけたはいいものの、なんと漢字が新字体。体の力が抜けてしまった。なお、新潮文庫の『北原白秋詩集』(神西清編)である。

先週観たものとして、劇団昴の『億万長者夫人』。福田恆存原作のそこそこに有名な芝居である。福田恆存戯曲の芝居を観たのは正確には実はこれが初めてで(以前公演された『罪と罰』は福田恆存の手をかなり離れたものだったようだ)、「あの福田恆存がねぇ」と思わせるような愉しい喜劇だったが、劇としての出来はイマイチだったような気がするのだ。戯曲のほうを読んでみないことには正しい評価はできないかもしれないが、最後、終幕あたりの流れの悪さ、科白の緊迫感の欠如などは残念に思う。

映画を観る時間はなく(いや『半落ち』を観たのを思い出した。つまらなかった)、没頭して読んでいた本は佐藤優『自壊する帝国』。いま、このときに読むつもりはなく買った本だったが、ちょっと最初のページをめくってしまったのが悪かった。他に読まねばならん本があるのだが、最後まで読ませたのはこの本があまりに面白かったからである。その1点は90年前後のロシア(ソ連)の実情が興味深かったこと。党と軍とインテリと大衆がこのように絡み合ってソ連は崩壊していったのだとよくわかるなかなかのノンフィクションである。

もう1点は佐藤氏本人のわかりがたさ。本書は佐藤氏の自伝のような性格もあるのだけど、結局、読了して佐藤氏の中身がよくわからなかった。素直に読めば、勉強熱心で外交官としての狡猾さもあり筋を通す好人物だということは読めばわかるが、なぜ彼が勉強熱心なのか、その狡さはどのようにして身につけたのか、なぜそれほどまでに自己を貫き通せるのか、それがはっきり見えてこなかった。見えないからこそ、佐藤優という人物に注目したくなるのだが。

ロシア――昔は熱中したものだけど、やっぱり私はこの国が好きだ。どうしようもなさは相変わらずだが(それがまた魅力的)、本書の一挿話としてでてくるアノ場面、人間の賢さも狡さもすべて抱え込もうとするロシア人インテリたちの執念が語られ、『カラマーゾフの兄弟』の登場人物たちが今にも隣室からひょっこり顔をだしてきそうな空気が広がる部屋の場面、それがとても嬉しいことと思ってしまうのはなぜだろう。懐かしくも思ってしまうのはなぜだろうか。

で、今読んでいるのは佐伯啓思『学問の力』と同『20世紀とは何だったのか』。前者を読んでいたのに、つい、電車の中で読む本をと思い見つけた本が後者で、以前途中まで読んでいた形跡があったので続きでも読むかと手にしたらこれがまた結構面白い。結局、両方を並行して読んでいる今。
by le-moraliste | 2006-07-10 00:31 |