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by le-moraliste
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読んだ雑誌感想――中国と日本と「私」

なんか面倒になってきたけど、最近読んだ雑誌論文・記事。(無記載はすべて『諸君!』7月号)

a. 山本一郎「2006年、中国バブル経済の正体が判る」

若い論客の登場である。若さゆえに文章は下手だが(といっても私より年上)、よく勉強しておりなかなか読ませる内容を書いている。

先日の人民元切り上げによって中国経済はどのように変化するか。よく云われているように、それは都市部(沿海部)の住民ではなく地方の農民の生活に直撃する出来事であろう。なぜならば、中国の農業の競争力は効率が悪すぎるため驚くほど低く、いまでも国際市況の4、5割高であるから。そこに切り上げが実施されると国際競争力はほとんど無になってしまうそうだ。(ところで農業を国内で取引する分には問題ないのでは? と思ったり。)現在は貧しい農家を都市部の工業力で支えている状態で、その都市部の工業が成長をやめたとき――つまり、北京オリンピックの建築受注がほぼ完了する2006年に、一度、中国経済の真価が問われるわけである。

この貧しい農家については外国も冷淡である。外国企業の製品の購買層に彼らは含まれていないからだ。市場にならない地域に目を向ける必要はない。それゆえ、中国の農家の問題は中国政府にしか解決の可能性はない。だが農民が暴動を頻繁に起こせば中国への投資リスクが高まるため、政府はなんとか農民を抑えようとする。そして外国企業もそれを後押ししてしまう。こうしてみると、我々も共犯者のような気がしてくる。

筆者山本氏の予測は、沿海部が地方を支えきれなくなって国が分裂するのではないかというものだ。政府の対策がどのようなものになるか。対策をすでに超えた問題であるのか。我々も注視していかなくてはならないだろう。だって、人口が膨大なのだもの。

b. 水谷尚子「中国・知日派知識人の呻き」

中国の反日愛国運動も一枚岩であるわけではない。良識ある知識人・役人も健在である。例えば広東省深圳市副市長は排日に対して、日本企業を守ると明言していた。彼らのような人たちは、政府が国際批判を怖れてデモを抑制しようとした種類のものではなく、自らの判断に基づく自発的な発言をしたのである。(もちろんこの場合、経済的利害が第一となっているが、そのような打算さえできない人々こそおそろしい)。

また(最近では減っているようだが)日本をよく知る知識人たちは、政府批判を微妙に避けつつ、中国人民に抑制を求めている。日本の優れた点をはっきり認識し、中国の現状に冷静な目を向ける姿勢がよく表われている。そして筆者は、彼らのような意見が影響力を持ちえない要因のひとつに、日本の支援の不在を挙げている。中国政府批判だけをしていているだけではあまり効果が期待できず、彼ら良識派を日本に招くなり、陰で支援するなり、日本政府の努力も、日中の相互理解に不可欠なのである。(それはそれで、彼らが日本に中国を売ったと国内で批判されてしまう一因を作ってしまいそうだが。)

c. 岩瀬正則「中国の「石油・鉄喰い」が世界を滅ぼす」

本号の傑作。まったくもって面白かった。岩瀬氏は鉄鋼の専門家(京大教授)で、私の知らなかったこと(この際、中国のことはどうでもいい)をいろいろ教えてくれた。ただし、石油についてはほとんど書かれていない。

日本が文句なしに世界一と云える分野は、鉄鋼業だそうである。技術力は他を圧倒的に凌駕しており、専門家である岩瀬氏も現場の技術者の知識・経験には到底敵わないほどだという。ちょっと失礼かもしれないがその日本と比べると、中国の急成長する鉄鋼業のおそまつさときたら・・・。

環境への悪影響など全く顧慮されず、ただただ生産量を増大していく中国は、環境破壊のみならず限りある資源の蕩尽を全速力で突き進んでいる。この中国に対応するために日本は何をすべきか。自動車産業にしても鉄がなければ生産増ができないのだから、日本の産業を守るためにも鉄鉱石の確保が喫緊の課題。世界三流の宇宙開発に資金をつぎ込むより、海外の鉱山の開発、鉄鉱石の備蓄基地の建設のほうが重要だというのが岩瀬氏の結論。

d. 村田晃嗣細谷雄一ブッシュ大統領「ヤルタ否定」 ―何故だ?」

5月に開催された対独戦勝60周年記念式典で、ブッシュ大統領が、第二次大戦後の世界秩序を決めたヤルタ協定を批判した。その背景と今後の行く末を語る対談。面白いことが多く語られているが、面倒なのでパス。

e. 薬師院仁志「ホンマかいナ 京都議定書 地球温暖化・危険論」

ちょっと衝撃的な論考。環境問題に素人の筆者(社会学専門)が、「二酸化炭素排出量増大→地球温暖化」というあたりまえとされる前提に疑問を投げかける。

簡単に云えば、最近の平均気温上昇は単に気候の自然変動ではないかということ。グリーンランドが文字通り「緑」の島だったときがあるように、気温の変動は地球の歴史の中で何度も繰り返されてきた。地球が寒かったときと比べれば今は暖かいだろうが、10世紀から13世紀にかけては現在より気温が高かったのであるから、この100年の気温上昇の原因は一概に二酸化炭素だとは云えないのではないか。そんな感じ。

f. 高島俊男「お言葉ですが・・・自称の問題」(『週刊文春』9月1日号)

毎回読む言葉エッセイ。今回は「私」の読み方。日本語ほど一人称が多様である言語はないが、身近な「私」という漢字、みんなはどう読んでいるのだろうか。筆者高島氏は、「わたくし」とふつう読むらしいが、私のような世代からすれば「わたし」が多い。

そもそも日本語で「私」「私」という言葉の連呼は邪魔である。そこで面白いのだが、「私」の使い方に迷った高島氏は、文章を書くとき、「愚僧」にしてみた。「そうしたら読者から「お坊さんでいらっしゃいましたか」とまじめなお手紙が来た」(高島氏)そうで、では、と今度は「拙者」にしてみたらしい。どちらも私にはわからない発想である。結局、「小生」に落ち着いたようだが、この言葉も私からみれば、偉そうな感じがする人称だ。高島氏はそれもあって「わたし」も併用しているというが、「私」という言葉もなかなかに複雑である。
by le-moraliste | 2005-08-28 13:52 | 新聞・ニュース